初めまして、元航海士のkazuです
本記事ではリアルな航海士の1日がわかります
前回の記事からの続きなので、まだ見てない方はこちらを参考にしてください
【忖度なし】リアルな航海士の1日 | 天国編
前回は暇な時間に焦点を当てた、かなり具体的なタイムテーブルを紹介しました
暇な時は16時間労働ですが、プレッシャーもなく自分の仕事を進められるという点では、かなり良いのではないでしょうか
のんびり働きながら陸で働いている人の倍以上の給料を貰える仕事は他にはないと思います
航海士の年収について気になる方はこちらの記事を参考にしてください
どのサイトよりもリアルな年収を紹介しています
【20代で1000万!?】航海士の年収
暇な時は楽勝に思えるな…
次は忙しい時について教えてください!
もちろんです
忙しい時は72時間で6時間しか寝れないこともありましたよ
24時間、休憩時間もなく働き続けたこともありました
航海士が忙しくなる時は、基本的に3パターンあります
- 荷役
- 輻輳海域
- トラブルが起きた時
- 入渠前後(マニアックなので今回は省略します)
今回はそれぞれのパターンの1日を何処よりも具体的に紹介していきます
忙しい時
1. 荷役
荷役とは簡単に言うと、貨物の受け渡し作業のことです
荷役は扱う貨物によってオペレーションが大きく異なります
具体的にはコンテナ船、バルク船、自動車船、危険物船などです
それぞれの船の1日を紹介したいのですが、今回は危険物船(原油タンカー)に限って紹介します
理由は、私個人の意見ですが一番忙しいと思ったからです
しかし入港時間は港ごとで毎回異なり、全てが下記のパターンにはなりません
会社によってやり方は異なるので、あくまで参考程度で抑えてください
ただ一つ言えることは、とんでもなく忙しいです
- 2:30水先人の送迎
入港のために水先人を船に乗せる必要がある
その送迎をするために起きなければいけない
0:30まで当直業務があったので、睡眠時間は2時間を切る状態で荷役の1日がスタートする - 3:00操船補助
水先人と当直航海士の補助をする
モジモジしていると船長に怒られるが、最初は補助の仕方がわからないので、避けて通れない道 - 5:00入港スタンバイ
ブリッジにおいて、船長の補助をする
ブリッジに士官は船長・水先人・私の3名しかいないので、船長と相性が悪いと終始怒鳴られ最悪の時間
相性が良いと非常に良い勉強機会になる - 6:00入港作業開始
係留索をとり、船の前後位置を調整する
その間こまめにエンジンを使うので、水先人と船長の指示に従ってエンジンモーションを変更する - 6:30必要書類の作成
入港時の船の状態をお客さんに提出する必要があるので、急いで作成する
この書類がないと荷役を開始できない - 6:45荷役の現場監督
初めに陸側と船側をホースで繋ぐ必要がある
その接続作業中に事故が起きることがあるので、緊張感を持って監督をする - 7:30荷役開始
現場で通油を確認し、同時に油が漏れていないかを確認する
荷役開始の合図から通油を確認するまで時間がかかるので、束の間の休息 - 7:45朝食
通油確認後、急いで朝食をとる
8:00から荷役当直が始まる - 7:55荷役当直
次席一等航海士から荷役を引き継ぐ
主席一等航海士の計画通りに油を積み込んでいく
油質の計測やバラスト調整(油の受け渡しに伴い船体が傾くため、海水を出し入れしてバランスを取る)、提出書類の作成、部員への安全確認の指示など、4時間全力で当直する
ミスすれば大事故につながり、最悪乗組員の命も奪いかねない
精神的にも肉体的にも疲れる - 11:50荷役当直の引き継ぎ
二等航海士に当直を引き継ぐ
- 12:00昼食
気が抜けて疲労感が襲ってくる
ゆっくり味わって束の間の休息を楽しむ - 12:30書類作業
荷役のタイムテーブルなど、お客さんに提出する必要書類を埋める
- 13:30出港準備
出港するために準備しなければいけない項目が会社のルールで定められている
まだ出港はしないが、空いた時間で済ませる
同時に入港時の記録作業なども進めておく - 16:00休憩
一通り終われば、休憩する
- 17:30夕食交代
当直航海士の食事交代をする
大体荷役が安定している状況での交代になるので、この時は少し気持ちに余裕がある - 18:00夕食
- 18:30メールチェック&休憩
- 19:40荷役当直
油の積みきりのタイミングになることが多いので、忙しい
現場の部員に的確な指示を出しながら、バルブ操作をコントロールパネルから行う
さまざまな計算をしながら主席一等航海士の指示のもと、油を積み切る
プレッシャーで泣きたくなる - 23:50荷役交代
二等航海士に荷役を引き継ぐ
- 0:00安全点検
油漏れがないかを現場に行って確認する
- 0:30書類作成
提出書類を埋めれるところまで埋める
- 1:00シャワー
疲れすぎてイライラする
- 1:10就寝
- 4:30起床
大体荷役終了時間が予測できるので、30分前には起きる
- 5:00荷役終了準備
必要書類の作成と荷役の補助をする
- 5:30荷役終了
必要書類を最速で仕上げて、ホースの取り外し作業の監督をしに行く
- 6:30出港スタンバイ
ブリッジで水先人と船長の補佐をする
- 8:30水先人の見送り
水先人を安全に下船させる
- 9:00航海当直
通常の航海当直に戻る
疲れ果てているが、まだ休めない
港の近くは船が多いので、緊張感のある操船になる - 11:55当直交代
やっと休める…
荷役の忙しさは毎回異なりますが、とにかく寝れなく忙しいです
そして何が辛いかというと、大体出港後に避難訓練(操練)や大掛かりな点検イベントなど、重い仕事が待っています
すぐに休日があれば気が楽ですが、大体きつい時は1週間寝れない生活を送ることになります
2. 輻輳海域
輻輳海域と呼ばれる船舶交通量が多い海域は、東京湾や大阪湾などの内海からシンガポールやホルムズ海峡、スエズ運河などの外海まで多岐に渡ります
その中でもほとんどの危険物船が通るシンガポール通峡のタイムスケジュールを紹介します
ちなみにシンガポール海峡内でも非常に混雑する所とそうでない所があります
今回は混雑するところがメインになった時のスケジュールを紹介します
- 7:40起床
速攻作業着に着替えてブリッジに上がる
- 7:50当直交代
一等航海士から当直業務を引き継ぐ
- 8:00航海当直
車の運転で例えるならば、お盆の首都高速道路をブレーキを使わずに走行するくらい大変
基本的に船長が操船権を持っているので、ひたすら周囲の状況を報告して補佐に徹する
危ない船にはVHF(無線)を使って英語で注意を促す
英語で無線を扱うには慣れが必要で、最初は大変
4時間脳みそを痺れさせながら安全運航に貢献する - 11:55当直交代
二等航海士に当直を交代する
- 12:00昼食
- 13:00操船勉強
輻輳海域は操船の勉強になるので、ブリッジに上がって操船補佐をすると良い
勉強になるだけでなく上長の評価も上がる
しかし上がって見学しているだけではもちろん邪魔なので怒られる脳みそが痺れるくらい見張りをして操船補佐に徹する
- 16:00書類作業
船舶交通の状況を見てブリッジを後にする
自分の仕事があれば進めていく - 17:30食事交代
当直航海士の食事交代をする
この時も周囲に船がたくさんいるので気が抜けない - 18:00夕食
一息つける
- 18:30休憩
次の当直に備える
- 19:45当直交代
一等航海士から当直を引き継ぐ
- 20:00航海当直
真っ暗で船の灯りだけを頼りに航行するため非常に緊張感がある
漁具も仕掛けられており、それがまた弱い光で見ずらい
どんな物でも見逃さず安全な航行をしなければいけない - 23:55当直交代
二等航海士と当直を交代する
- 0:00巡検
船内の安全確認をしに行く
- 0:30自由時間
極度のプレッシャーで疲労困憊な精神を休める
- 1:30就寝
輻輳海域を航行中はお酒は飲めない
暇な時の航海当直とタイムスケジュールはほぼ同じですが、プレッシャーが非常に大きいため疲れます
もし事故を起こせば何百億という損失を出し、関係者全てに迷惑をかけ、下手すると人の命も奪うかもしれません
このプレッシャーの中、迅速な判断を求められるケースが頻繁にあり、判断ミスをすると他船との関係性が悪くなりパニックに陥ります
労働時間だと12時間程度しか働いていませんが、ものすごく疲れます
3. トラブルが起きた時
船にはトラブルがつきものです
そしてそのトラブルはいつ起こるかわかりません
トラブルが起きた時は大体、当直時間以外はその対応に追われます
入港直前に起きた時は最悪です
荷役は、荷役に関係する設備が正常であることが開始条件の1つになっています
入港直前で配管内の油が船内に流出した時は大騒ぎになりました
この時は当直時間以外も全力で働き続けます
自分の仕事が溜まっていたとしても、船内トラブルの解決が最優先です
油が漏れた時は、拭き取り作業や回収作業があるので、全身油まみれで真っ黒になりました
船で扱っている油はサラダ油のような透明な油ではなく、真っ黒でドロドロしたような油です
匂いも最悪で、硫黄の匂いがする油やドリアンのような匂いがする油など様々あります
午前の当直で疲れたところ、昼は劣悪な環境で働き、夜は再びに当直に入るという1日は最悪です
まとめ
忙しい時は基本的3パターンあります
- 荷役
- 輻輳海域
- トラブルが起きた時
稀にあるトラブルが起きた時を除いてそれぞれに共通していることは
極度のプレッシャーがかかっている中、迅速かつ的確な判断が求められるということです
荷役では特に労働時間が長く、まとめた睡眠も取れない生活が続くため心身ともに疲労困憊になります
忙しい日が続くと私も憂鬱になり、夢と現実の境がわからない時もありました
その分、大洋航海で暇になった時の達成感や充実感は計り知れなく、他の職では味わえないと思います
肉体的なタフさだけでなく精神的な逞しさも求められる航海士、興味がある人はぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか
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